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7月, 2020の投稿を表示しています

13歳からのアート思考

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著者:末永幸歩 アート思考は3つの要素で構成されている。 表現の種。これは作品そのもののこと。 興味の種。これは、興味、好奇心、疑問のこと。 そして探求の種。 人々は、表現の種を評価しがちだが、大切なのはそれ以外の部分いろいろなものに興味を持ち探求していくこと。 その過程で、様々な問いかけを自分に投げかけ、考えていく。 本書を読んでいると、歴史の流れの中で、アートの定義が変化していくのがわかる。 また、好奇心を持ち、自らに問いかけ続けることによって、人はアーティストになれる。これは、アート作品を作るという意味ではなく、常に探究心の忘れずに探求の種を伸ばし続けていく人のことだ。 本書では、アウトプット鑑賞と言う作品を見て気づいたことや感じたことを声に出したり紙に書き出したりするアウトプット法についても紹介されている。 アート好きや、美術でつまずいた人にも読んでもらいたい本だ。 自ら、どのように思考し、考えを深めていくか。興味はあるけれどやり方がわからないという人。そういう人は、1つの手がかりとして、本書を手にとるといいと思う。 ジャクソン・ポロックが取り上げられていて、絵はキャンバスに絵の具をのせたものだという解釈をした人物だということを知り、納得がいった。

はじめて考えるときのように

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著者:野矢 茂樹  考えるとは何かについての本。 自分が考えているのかどうか、ということは自分自身よく思い悩む。考えが浅いというか、ただぼんやり生きているだけなんじゃないかと。そういう人はこの本を読むと、手がかりを得られるかもしれない。 基本原則にさかのぼって考えることの大切さを教えてくれる。当たり前のことを当たり前と考えず、それはなぜそうなったのか、それはどういうことなのかというのを考えるのは大切なことだ。 考えると言うのは、結論を出すことではない。観察し推論し、いろいろな可能性を比較する。それが考えると言うことだ。 問題 の まなざし を もっ て よく 観察 する こと。 そして、 実際 に 作業 する こと。 そして思いついたことをなんでも書き出してみること。 これはいいアドバイスだ。書き出すところまでは自分もやっているが、それを「読む」のではなく「見る」ことができるようにしたほうがいいというアドバイスは、実践してみようと思った。 「考える」ということについて考える。この本は哲学者である著者が、誰にでもわかるように、その手助けをしてくれている良書だ。

チャタレ-夫人の恋人

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著者:D.H.ロレンス 恥ずかしながら、エマニュエル夫人の原作本だと思っていた。 それは極端な例だとしても、ポルノまがいの小説といったイメージがある人は逆に読んでみるといいと思う。人間として生きること、そして階級の問題など、イギリスの抱える問題がしっかりと描かれている。 気になる性描写は、具体的ではないが、情熱が伝わってくる。過去において、裁判にまでなったと言うのは、今でこそ考えられないが、そういう時代もあるかもしれないと納得がいく。 チャタレー夫人ことコニーは、空っぽと称される夫クリフォードと2人で暮らしている。クリフォードは半身不随であり、子供を持つ事は絶望的だ。それでも2人は端から見れば幸せに暮らしていた。クリフォードは、誰かと子供を作るようにとコニーに言う。子供を作り、クリフォードとの子供として育てようというのだ。納得しかねていたコニーだが、ある日森番のメラーズに体を許してから、変わっていく。 コニーは、メラーズとの関係を続けるうちに、女としての自分に気づく。屋敷の召使いであるボルトン夫人は彼女に恋人がいることを見抜く。夫のクリフォードはそこまでではなかったが、コニーが何か変わったことが直感した。 この辺の描写が見事だ。 ボルトン夫人がメラーズとコニーの関係に気づいたあたりから、一気に物語が面白くなる。 中盤以降メラーズとコニーは、人間らしく生きることについて、必死になっていく。 雨の中で駆けずり回ったりすることで、機械化する世界に反抗する。 人間らしくいきることを望んでいるメラーズと、彼に惹かれていくコニーの関係は今後どうなっていくのか。それはわからないが、メラーズの質素だがしっかりとした生活は今のミニマリストにも通ずるものを感じた。 物事の本質をとらえ、堅実にいきていく。 派手さはないが、両足をしっかりと踏みしめて人生を歩んでいく人間の重みを感じた。

NHK 100分 de 名著 アルベール・カミュ『ペスト』 2018年 6月 [雑誌] (NHKテキスト)

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「ペスト」はまだ読んでいないが、こちらを先に読んだ。 本編を読んでからでもいいが、中条省平氏による懇切丁寧な解説を読んでからのほうが理解が深まる気がする。いずれにせよ、本編を読むのが楽しみになった。 アルベール・カミュといえば不条理文学である。 中条氏は不条理には二段階あると述べている。 第一段階は「異邦人」や「シーシュポスの神話」で書かれている、自殺やニヒリズムに陥る一歩手前の段階。 そして「ペスト」で書かれているのが第二段階。自己を客観視して、世界の不条理に気づいた人間の不条理性というものに気づいた人間が、ではどのようにして不条理を乗り越えられるか考える段階である。 本書では「ペスト」をどのように読み解くか、原書での単語の語源まで遡りながら解説されている。それを読んでいくうちに、本編がいかに重層的な作品であるかがよくわかる。 「ペスト」の底にあって、文学者カミュを不条理への反抗にむけて突き動かしていた根源的なモチーフ。地中海の光、自由を生きることへの幸福、そして寡黙な母親をはじめ、世界の悲惨の中で自分にできることを日々誠実におこなう無名の人々への愛。 本書の最後に書かれているこの言葉が、カミュの文学をよく表していると感じた。

人口で語る世界史

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著者:ポール・モーランド 世界史というよりは、人口統計学の本と言ったほうがいいだろう。 人口が世界情勢にどのような影響与えているのか、知りたい人には面白いのではないか。 世界史とは言っているが、最近の200年間を対象としており、世界史と言うには期間が短い気がする。ただし、その間の世界の動きについてかなり細かく分析しており、近現代史としては楽しめる。 この本を読んでいてイギリスからは、アメリカに移民したのはよく知られているが、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドに関してもイギリスからの移民が国を作っていると言うことを知り興味深かった。 この本の最初に語られている、人口とは軍事力であり、経済力であるというアプローチは、興味深い。そして、納得できるものでもある。 また、その人口の増減を左右する要素としては、出生数、死亡数、移民数である。 人口統計学は、社会についての意味深いなにかを伝えており、その数字を連続するものとしてとらえると、特別な変化を説明できる。また、データは何百人もの個人の物語である。 日本についても触れている。日本と西洋のはっきりした違いは移民だと言っている。移民を受け入れることによって人口減少を補うということをしていないというのだ。 また日本とロシアのはっきりとした違いは平均寿命だそうだ。ロシアの人口が減少している要因は、高いままの死亡率と低い出生率だが、日本の場合は平均寿命の伸びが出生率の低さを相殺して人口減少は遅れている。 今後も日本人の平均寿命は伸び続けなければ、人口減少は早まるだろう。つまり日本は民族的にはほとんど同質だがどんどん老いているということだ。日本の、出生率が低く高齢化する社会の姿について筆者は特に興味深いと言っている。 日本の年齢の中央値は現在46歳だそうだ、これはイタリア、ドイツとともに世界で最も高い。米国より9歳も高い。 人口でいかに世界史を語るのかということを知りたかったが、たくさんの物語の蓄積で歴史を語ることができるのだということがわかった。