銀の匙



著者:中勘助

銀の匙は中勘助が書いた小説。中勘助の自伝的小説だそうだ。
明治43年に前編が執筆され後編は大正2年1913年に執筆された。
文章が美しく、当時をしらない自分にも郷愁を抱かせる描写がすばらしい。

東京の神田で生まれた主人公は、やがて緑豊かな小石川に引っ越す。
その土地でであった子どもたちとの交流や、自然描写、淡い恋心などが綴られていく。
病弱だった主人公が、世界を見る視点は、生き生きとしていて驚きや恐怖に満ちている。

小学校に上がってしばらくすると、主人公は勉強に追いつかず、苦労して遅れを取り戻す。
体が大きくなり、ガキ大将となる。
やがて近所に越してきたおけいちゃんという女の子と親しくなり、一緒に日々を過ごす。同級生からのやっかみや、ライバルの出現などもあるが、おけいちゃんは最後は主人公のもとに戻ってくる。
しかしおけいちゃんは父親が亡くなり、母親の郷里に戻ることになる。
おけいちゃんが暇乞いをしにきたとき、主人公は部屋にこもって挨拶をしない。このひねくれた気持ちは自分にもよくわかった。

後半は、男らしさを求める兄とのやりとりや、戦争で盛り上がる同級生や学校の先生への反発、ひとり休暇をすごしにいった静養地での美しい女性との出会いなどが語られる。
この女性とは少ない交流の中で主人公に強烈な印象を与えたらしく、これ以上ない美しさをもって描写される。そして、彼女が京都に戻る暇乞いをしにきたとき、主人公はまたも天の邪鬼になり、聞こえなかったふりをする。

彼は恋をした女性の暇乞いには応えないのだ。
それは、おそらくは暇乞いを受けてしまうとその別れを認めることになるからではないだろうか。

美しいものを丁寧な言葉で表現する。それを書き連ねたことで美しい小説が完成した。

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